生徒さまインタビュー!Nさん (声優・俳優・養成所講師)
今回インタビューさせていただく生徒さまは、Nさんです。
Nさんは声優・俳優業の傍ら、声優養成所の講師をされています。ご自身が持つ限界を突破するため、また教え子のためにも勉強してみたいとレッスンに来てくれています。
そんなNさんに、ボイストレーニングを学ぶことの大切さをプロとして、また講師として、熱く語っていただきました。

■ 言葉をクリニックする以前に、声をクリニックしなきゃいけない人たちが多い
先日、Nさんから嬉しいご連絡がありました。
「先生が作られたフースラーの資料、素晴らしかったです!ありがとうございます!!」
私のレッスンでは、イラストや図解を使ったオリジナルのテキストを使っています。人体解剖図のアプリや、いらすと屋さんの素材を使いながら、初めてボイストレーニングをする人にもわかりやすい言葉で、簡潔にまとめています。このレッスンで使っているテキストをもとに、ご自身の教え子たちにもボイストレーニングを教えてみたところ、とても役立ったそうです。
Nさんは、養成所の生徒の中には「言葉をクリニックする以前に、声をクリニックしなきゃいけない」人たちが多いと感じるそうです。
また同時に、どうやって声を出したらいいのか?初学者にイチから教えようとしたとき、自身も他人に説明できるだけのボイストレーニングの知識が必要だと感じたそうです。
そのような理由から、私のレッスンに来てくれました。知識だけにならないよう、自分でも声を出して、実体験を通してさらなる「声」の理解を深めているところです。
Nさんはこのように語ります。
「私の教え子の中には、気概のある人ほど基本の『き』をやらずに、僕のこの声どうですか?といきなり読みを持ってきてしまう傾向があります。芝居、表現力を磨く以前のことがまだできていないのに。
養成所を転々としてしまう人もいるようですが、これでは当然のことながら、大手の事務所からは切られてしまいますよね。商業用の声を提供していくわけですから。
どこの養成所にも同様の傾向が見られるようですが、生徒さまには、まずは実際にできるできないに関係なく、せめて自分の声を自覚して、言われたことを『なるほど!』と思えるようになって欲しいです。
詩子先生が作られたイラストや図解の資料はいいですよね!からだの内側をマッピングできます。マッピングをすることで、わずかでも体感できる人もいるので」
■ 唯一、効果があったのがフースラーメソードだった
このように熱い想いを語るNさんには、声の勉強に苦労された経験があるそうです。
「学生時代からボイストレーニングのありとあらゆる本を読んで、自分でも実際に試しました。そもそも学校や養成所というのは、どうやったら声が出るようになるのかを教えてくれるところではありません。だから自分で必死に勉強して覚えていきました。
本当に多くのやり方を試しましたが、その中で唯一、効果があったのがフースラーメソードです。こちらのレッスンを受けるまでは、武田梵声先生の『ボーカリストのためのフースラーメソード 驚異の声域拡大をもたらすアンザッツとは?』を読んで、音源を聞きながら自分でトレーニングしていました」
それまではご自身の理解の中で実践していたフースラーメソードですが、実際の指導を受けてみたところ、次のように感じたとのことです。
「疲れました!!汗びっしょり、暑いです(笑) どっと疲れましたが、こういうものだと思います。
例えばアンザッツ2番は、自分の中で練って作っていた音色を、本来の筋肉の作用でスコンと当てて出すところまではできました。今度はその純粋な音色を、商用の音色としてどのように調音するかが課題になると感じました」
声優さんのように日頃から「求められる声」を出す必要がある方は、バージョンアップのためとはいえ、今までの声の出し方―今までの鋳型を新しい鋳型に作り直すのは、勇気がいるかと思います。自分の中で「よい」声の配置がわかっているからこそ、その枠を出ることに、戸惑いを感じるものですよね。
ボイストレーニングは、「糸が良質。だからジャケットも良質!」という世界。土台となる糸の部分から品質を上げていく、いわば根本治療なのです。
Nさんが探りながら出したアンザッツ2番の音色は、とても感動的でした。焦ることなく、引き続き楽しみに声を出していきましょう!

■ たくさん収録した後は、声枯れをしたり、鼻の調子が悪くなることがあった
「収録でたくさん声を使ったあとは、声が枯れたり、鼻の調子が悪くなることが多かったんです。フースラーメソードによるボイストレーニングを始めてからは、それらが改善されていきました」
最初から声が出る人も、声が出るようになった後でも、どのように「よい」声を維持して、不調に対してどのように改善していったらよいのか、知っておくのはとても大事です。これについてはフースラー自身も『うたうこと』の中で次のように伝えています。
《天与の恵み物を、常に自分の制御のもとに置いておかねばならない》(※)
そういう意味で、ボイストレーニングとは、声で芸術表現するすべての人において必要なものだと私は感じています。
実は私自身も、心因性咳嗽という咳に悩まされたことがあります。それが地声が強化されてからは、咳き込むことがなくなりました。恐らく、声帯を閉鎖する筋肉が蘇ってきて、息漏れが改善されたのだと思います。喉自体も強くなり、ほとんど風邪をひかなくなりました。
ボイストレーニングで声が「よく」なると、発声に伴うからだの不調も、自然と改善されていきます。嬉しいですね。
■ 長く声優業を続けていくためにも、自分のように遠回りしないためにも、基本の「き」を疎かにしないで欲しい
Nさんはご自身の教え子たちに、自分のように遠回りしないためにも、基本の「き」から学んで欲しいと伝えているそうです。そ のためにフースラーメソードによるボイストレーニングは有効だとも。
「先週できていたことが、翌週にはできなくなっている人が多いです。ちょっとよくなったら、はい!次!と今までのことを辞めてしまうんでしょうね。積み上がっていかないんです。
声に限らず、基礎訓練は『地味』で『単純』で、面白みを感じにくいものが多いです。 しかし続ければ確実に能力は向上します。身体に完全に染み込むまで……いや、むしろ染み込んだ後こそ、自分自身の確認のために稽古を習慣化することで、高いパフォーマンスを維持できると思うんですよ。
間違った方向に行って、回り道をしないためにも、基本の『き』の字を疎かにしないで欲しいと願っています。
もちろん、今の状態でもいいところはたくさんあると思います。だけど、長く声優業を続けていくとなると、今の自分のままでいいと思わずに真剣に勉強して欲しいなと、応援しているんです。
自分も回り道をしたからよくわかるんです。時間がもったいないですよね」
ボイストレーニングは、誰がいつから始めても、素晴らしい旅となります。「声」と真剣に向き合うって、すごく楽しいんです。あなたも今から始めてみませんか?
Nさん、熱く語ってくれてありがとうございました!
(取材:なかむら詩子)
※『フレデリック・フースラー/イヴォンヌ・ロッド=マーリング 著 須永義雄/大熊文子 訳『うたうこと 発声器官の肉体的特質―歌声のひみつを解くかぎ―』音楽之友社 15頁22行目
