17世紀から受け継がれてきた、声の本質に向き合うメソード

当教室のボイストレーニングは、
発声研究者 フレデリック・フースラー (Frederick Husler, 1889–1969) が提唱した
フースラーメソードを土台にしています。

フースラーメソードは、
17世紀 (今から300〜400年前) のオールドイタリアンスクールで集大成された
「喉の潜在能力を最大限に引き出すための発声法」を、
現代に復興したボイストレーニングです。(※1)

特に、

  • 裏声の重要性
  • 喉頭懸垂機構 (「よい」声を出すのに重要な喉の中の筋肉)

に着目した点は、
現在のボイストレーニングにも大きな影響を与えています。

フースラーの著書
『Singen (うたうこと)』は、
「ボイストレーニングの聖典」と呼ばれ、
今もなお、声や表現に真剣に向き合う人たちに読み継がれています。

当教室では、
誰が聴いても「よい」と感じられる声を育てるために
このフースラーメソードを採用しています。

実は、多くのボイトレが飛ばしている「重要なプロセス」

私がフースラーメソードを大切にしているのには、理由があります。

ボイストレーニングの歴史には、
19世紀以降に生まれたモダンメソードによって、
本来とても重要だったプロセスが簡略化されてしまった背景があるからです。

そのひとつが、

裏声と地声を、きちんと分離し、強化すること

です。

ミックスボイス」という言葉を耳にしたことがある方も多いと思います。

本来ミックスボイスは、
裏声と地声をしっかり分離、強化し、
その上でミックス (再融合) した声のことを言います。(※2)

もしくは、裏声と地声を滑らかに繋いでいく訓練です。
決して、それっぽい中音域を出すことではなく、
"生理的にちゃんとできている"ことを重視した大切なトレーニングなのです。

しかし、19世紀以降のモダンメソードでは、
この分離、強化のプロセスをすっ飛ばしてしまいました。
現代でも間違ったやり方が広まったままです。

そこでフースラーは、
17世紀のイタリアで集大成された
「喉の潜在能力を最大限に引き出すための発声法」(※1)を研究し、
さらには民謡、民俗学も研究し、
本来の正しいボイストレーニングを現代に復興させました。

それが、フースラーメソードです。

「早くできる」より、「ちゃんと積み上がる」声を

正直に言うと、
私自身がミックスボイスと呼べる声が出てくるまで、
4〜5年かかりました。

フースラーメソードを学んでいても、です。

今でもあちこちで、

「簡単にできるミックスボイス」
「すぐに楽に声が出る」

といった言葉をよく見かけます。

もちろん、声の変化には個人差があります。
しかしこれだけは言えます。

声を育てる上での大切な【基礎のプロセス】を省いてしまうと、
いつかどこかで必ず行き詰まります。

「早くできる」より、
「ちゃんと積み上がる」声を。
回り道のようで近道なのが、フースラーメソードです。

アンザッツで、声の土台を育てる

フースラーの研究によると、
人間の発声器官はもともと
「よい」声で歌う機能を備えている
とされています。

(人類は最初からそういうふうに作られているー歌うことは人間の属性)(※3)

しかし現代人は、
その機能を驚くほど使っていません。

そのため喉の中には、
使われていない筋肉がたくさんあるのです。

フースラーメソードでは、
これらの中でも「よい」声を出すのに特に重要な筋肉、
喉頭懸垂機構アンザッツ(※4)という方法で
声を出しながら、目覚めさせていきます。

「ウィ~」
「ハッハッハッ」

など、不思議でおもしろい声を出します。
この音色は全部で7種類あります。

アンザッツで発声する声は、
声の根っことも呼べる原始的な音色 (声音)です。

歌声ばかりでなく、
話し声も支える重要な「声の土台」となる音であり、
フースラーメソードが、歌声にも、話し声にも効果がある理由はここです。

地味だけれど、確実に積み上がる

声に限らず、基礎訓練というのは、
地味で単純なものが多いものです。
しかし、続ければ確実に能力は向上します。

フースラーメソードは
「時間がかかる」と言われることもありますが、
声に向き合う人生の中で考えれば、
その数年は決して無駄にはなりません。

もっと深く知りたい方へ

フースラーメソードについて詳しく知りたい方は、
フースラー理論の第一人者である
武田梵声先生の書籍をお勧めします。

特に『フースラーメソード入門』は、
理論だけでなくコラムもあり、読みやすい一冊ですよ。

また、声がどのようなプロセスで変化していくのかについては、
こちらの教室ブログでも紹介していますので、よかったらご参考になさってください。

※1 武田梵声『「3つの音」だけで最高の声になるボイストレーニング ゴルジャメソード入門』日本実業出版社(2021年)23頁2行目~3行目
※2 武田梵声『フースラーメソード入門〈DVD付〉』日本実業出版社(2018年)160頁1行目~161頁8行目
※3 フレデリック・フースラー/イヴォンヌ・ロッド=マーリング 著   須永義雄/大熊文子 訳『うたうこと 発声器官の肉体的特質―歌声のひみつを解くかぎ―』音楽之友社 (2019年)9頁3行目~4行目
※4 ドイツ語で「当てる」「焦点を決める」という意味